東京高等裁判所 昭和32年(う)1584号 判決
被告人 甲斐忠則
〔抄 録〕
弁護人控訴趣旨一、について。
所論は要するに、原判決は法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由である心神喪失乃至心神耗弱の事実が主張されたのにこれに対して判断をしなかつた違法がある旨主張する。
仍つて本件記録を精査するに、原審第一回公判廷における被告人の供述として弁護人の質問に対して「東大の精神科で診察を受け精神分裂との事であつた」との旨の記載があること(記録一三丁)、原審第二回公判廷において参考人甲斐静恵の供述として弁護人の質問に対して「兄と二年前迄一緒に暮していた、兄は明大専問部商科を経て中央大学法学部を卒業し入隊し復員後精神の疾患を来たして四年程前東大精神科で診断を受けたところ精神分裂症の診断があつた、その後電気療法を致したがそれもショックが激しく思うように回復しなかつた」旨の記載があること(記録三七丁参照)洵に所論のとおりである。果して然らば、被告人の前記供述たるや、刑事訴訟法第三三五条第二項に所謂「法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実」にあたる心神喪失若しくは心神耗弱の事実が主張されたものと認めるを相当とすべく、原審としてはこれにつき判断をしなければならなかつた筋合である。然るに原判決を検討するもいささかも右判断をした形跡はこれを認めるに由ないところであるから、此の点原判決は刑事訴訟法第三三五条第二項に違反するものと謂うべく、而も此の違法は判決に影響を及ぼすことが明かであるから、原判決は到底破棄を免れない。
(草間 渡辺好 渡辺辰)